「千里の道も一歩から」 ~セクシュアル・マイノリティと「ヘイトスピーチ」をめぐって

レインボー・アクション 藤田裕喜(ふじたひろき)

「(同性愛者は)どこかやっぱり足りない気がする」「遺伝とかのせいでしょう」「マイノリティで気の毒ですよ」

私たちの活動の発端となったこの発言は、2010年12月、国や都が主催する「人権週間」の最中に、当時の石原慎太郎東京都知事によって、記者会見の場でもたらされた。

当初私たちはこの発言に対して、裁判と解職請求(リコール)の可能性を検討したが、裁判ではすでに、いわゆる「ババァ発言」をめぐって一定の判断基準が示されていたこと、解職請求(リコール)についても、当時の規定では180万を超える署名が必要なことから、どちらも断念せざるを得なかった。

そもそも国際的にも、セクシュアル・マイノリティに対する差別を禁止する条約は未だなく、この発言を問題化するハードルは高い。一般的勧告35にもとづいて検討しても、確かに「上級の公人」によるという点においては、「特に懸念すべきもの」であり、「職務から解くことなどの懲戒的な措置」が必要だが、「唱道や威嚇を通して、犯罪の遂行を含む特定の形態の行為を行うよう影響を及ぼ」す「扇動」とはいい難く、少なくとも法律で処罰すべき「ヘイト・スピーチ」とは考えられない。

とはいえこの種の発言は、日常生活のあらゆる場面-家族や友人との会話、職場や学校、またテレビ番組やインターネットなど-において突如として姿を現し、当事者を不意に差別や偏見、揶揄や嘲笑の対象として貶める。その精神的な苦痛は筆舌に尽くし難く、何ら許容できる要素はない。また、報告された数こそ少ないが、「ヘイト・クライム」も発生しており、問題の根は深い。

こうした状況は、社会の中でセクシュアル・マイノリティの存在が不可視化されていることが根本的な原因と考えられる。一朝一夕の解決は困難でも、この瞬間も悩み苦しんでいる人のことを思えば、一刻の余地もない。その意味では、文字通り「千里の道も一歩から」歩む覚悟で、今後も活動を続けていきたい。